2 研究の方法

 

2-1 対象地域概要

 

本研究では廃食用油回収を行っている地域のうち、東京都江戸川区、東京都品川区、そして千葉県柏市をとりあげている。それは、東京都江戸川区が廃食用油回収業者、東京都品川区が区行政、千葉県柏市が市民団体NPOと、異なった主体主導の下に廃食用油回収が行なわれており、それぞれの回収方法の相異点を比較検討することが主題である。また、これらの地域に対応する下水処理施設として、東京都葛西処理場、東京都森ヶ崎水処理センター、手賀沼終末処理場の水質データを比較している。なお、東京都区部の下水道処理計画についての処理区画管轄範囲は以下のとおりである。(2-1参照)

2-1東京都区部下水道全体計画図(出典:東京都下水道局)

2-1-1 東京都江戸川区

東京都江戸川区では、廃食用油回収業者である東日本油脂事業協同組合が「家庭用廃食用油回収モデル事業」としてこれまでの業務用廃食用油回収事業に付加する形で平成13年度より回収事業を開始している。平成13年度内で計6回行なわれた回収事業の結果を採用している。

葛西処理場は、江戸川区全域と足立区の一部、約76万人の下水処理を管轄しており、年間約1億25百万立方メートルの下水を処理している。今回この葛西処理場では、分水槽における流入下水水質検査値を採用した。

また参考として、周辺水域環境における新中川小岩大橋の水質検査値を採用した。

 

2-1-2 東京都品川区

東京都品川区では、区行政が廃食用油を資源回収品目の1つとして指定し、平成11年度よりその他資源回収物とともに拠点回収を行なっている。各年度の合計回収量を結果として採用している。

森ヶ崎水処理センターは国内最大、世界第2位の規模を誇る下水処理施設である。大田区全域と品川・目黒・世田谷各区の大部分、渋谷・杉並各区の一部、約210万人の下水処理を管轄しており、その下水処理量は年間約4億5千万立方メートルに達する。今回この森ヶ崎水処理センターでは、沈砂池における流入下水水質検査値を採用した。

また参考として、周辺水域環境における立会川立会川橋の水質検査値を採用した。

 

2-1-3 千葉県柏市

千葉県柏市を中心とした地域では水質悪化が著しい手賀沼を復活させようと、1985年に主婦を中心とした生活協同組合がせっけん工場を設立し、汚染源である廃食用油をせっけんにリサイクルする活動が行なわれている。現在ではNPO法人「せっけんの街」として独立して運営されている。今回は平成12年度と13年度の回収データを採用した。

手賀沼終末処理場は、松戸・柏・流山・我孫子・鎌ヶ谷・印西・白井各市、沼南町の約40万人の下水約58百万立方メートルを処理し、利根川に放流する終末処理を行なっている。(2-2参照)今回この手賀沼終末処理場では、沈砂池における流入下水水質検査値を採用した。

また参考として、周辺水域環境における手賀沼中央の水質検査値を採用した。

 

2-2手賀沼終末処理場の位置と処理管区(出典:千葉県下水道公社)

 

2-2 下水処理過程概要

 

以下に標準的な下水処理過程の概略を示す。(2-3参照)

 

2-3一般的な下水処理場(出典:東京都下水道局)

下水道及びポンプ所を経て処理場に到達した汚水は、まず沈砂池で大きなごみや砂を沈殿させ、取り除く。そこからポンプで第一沈殿池に送られ、沈砂池では沈まない細かい汚れを時間を掛けて沈める。次に曝気槽で、活性汚泥法と呼ばれる微生物を利用した好気的な処理によって、下水中の有機物を分解する。そして第二沈殿池で残留した汚れを時間を掛けて沈殿させる。水質汚濁防止法に定められた河川や海域などに放流する場合には、さらに砂ろ過法や生物膜ろ過法などを用いた高度処理が施される。沈殿池や曝気槽で沈殿した汚れは下水汚泥として脱水され、焼却・埋め立て処理の他に煉瓦等に再資源化される。

また活性汚泥法の他に、新たにA2O法と呼ばれる、嫌気過程と好気過程を交互に通過させる方法も試験的に導入されている。この方法はBODとともに、富栄養化の原因となる窒素やりんを分解するため、東京湾の赤潮被害抑制の効果が期待されている。

 本研究では、この過程の中で曝気槽において使用されるポンプ用電力について、評価対象としている。

 

2-3 データの収集、解析方法

 

本研究で主眼を置いている負荷としての下水処理場における電力エネルギー使用量、あるいは処理プロセス維持管理及び系外に流出した汚染物質処理に伴う経費(コスト)を定量化するために、実際に対象地域において観測されたデータを用いて算出を行なっている。

各地域の廃食用油回収データはそれぞれの主体から直接データ提供を受け、そのまま使用している。(6章〜第8章参照)

各処理場の下水処理データは、東京都下水道局発行の「東京都下水道事業年報(平成7〜13年度)」、千葉県手賀沼下水道事務所提供のデータを参考にしている。その他周辺水域環境のデータは東京都環境局、千葉県環境生活部のそれぞれの観測データを用いている。

下水道に関する諸データは東京都下水道局が公表しているものに基づいている。なお、本研究ではBOD値(生物化学的酸素要求量:単位mg/L)を下水処理における活性汚泥法での好気分解に必要な酸素量の定量に、Hexane値(ノルマルへキサン抽出物質:単位mg/L)を下水中に含まれる油分の定量にそれぞれ用いている。ただし、平成13年度については明らかになっている期間の平均値である。また、処理水については定量下限値が1mg/Lのため、実際には1mg/L以下であると思われる場合でも1mg/Lとしている。

また廃食用油の発生量や成分、特徴を特定するために、農林水産省発行の「我が国の油脂事情(平成7〜13年度)」を元に各油脂の消費状況を概観した。また、各油脂の脂肪酸組成については、日本農林規格(JAS)の標準的な割合を採用した。(3章・第4章参照)

作業としては、これらの多種多量な収集データを読み込むことから始めて、その中に記載しているデータ数値の中でも今回の定量計算に必要なものを抽出し、表化した。この表を元にして諸々の計算を行ない、今回の結果として示している。

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